「五条楽園って」其の伍
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34 ) 熟れた芸妓.
[2004/02/09(月) 23:40]
私は、夜道をトボトボ歩きながら、泣きたくなっていました。「どうして?」と思いました。「どうして、私の願いは届かないのかな?」そう思ったのです。そう思いながら、彼のマンションへと通じる坂道に出たとき、「はっ」としました。20メートルほど先に忘れもしない後姿を見つけたのです。夏に、置屋さんの前から、いつもそっと見送った後姿。ずっと探し続けた後姿。私は、凍りついたようにその場に立ち尽くし、「やっと、逢えた」と思った瞬間、胸がいっぱいになりました。彼を呼び止めようとするのですが、声を出せば涙がこぼれそうで、ただ息を飲むばかりでした。私は、遠ざかる彼の後姿をめがけて駆け出していました。彼は、足音に気付いたのか振り返ってくれました。足音の主が私だと分かったのでしょう。びっくりした顔で、私の名前を呼んでくれたのです。私は、彼の顔を見た瞬間、堪えきれなくなり、涙をぽろぽろ、ぽろぽろと流してしまいました。彼は、相変わらず驚いた顔で、「もしかして、俺に会いに来てくれた?」と訊くのですが、私は震えてうまく声を作ることができず、涙声で、ただひと言「逢いたかった」と、それが精いっぱいでした。
 彼は、私を彼の部屋へ招待してくれました。部屋に入ると私の手を握り、「冷たいね」と、洗面器にお湯を汲んで来てくれて、「ここに手を入れて温めればいい」そう言ってくれました。そして、そっと私の手を取り、お湯の中へと導いてくれたのです。私は、夏に感じた母親のお腹の中にいる感覚を思い出していました。やさしく包んでもらう感覚。心が溶けてしまいそうな感覚。
 彼は、「俺は、ずっとフラれたと思ってたけど・・・」そう言いました。私は、「だって、私は娼婦だし・・・」と答えると、「娼婦だったらダメなのかな?」「娼婦でもいいの?」「娼婦がいい悪いじゃなくて、ただ、きみがいい」彼はそう言ってくれました。私はその言葉がうれしかった。

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管理者:KFJ
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